鋭読 ~英独のニュースから世界を読む~

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ドイツの格差社会問題

格差社会」ということばが今では日本のあちこちで聞かれます。その実態については議論があるようで、消費の安定や景気好天を捉えて日本政府は「そう大したことはない」という見解のようですが、給食費が払えない、生活保護家庭が増えたなど、小泉改革の悪しき遺産があることは確かだろうと言わざるを得ません。
ドイツではどうなのでしょうか? 1989年の東西ドイツ再統一後、旧東ドイツ領の経済力が弱く、平均収入も東西で格段の開きがあり、いわゆる「ドイツ病」の時代がありました。他方、外国人労働者の問題はすでに70年代から始まっており、現在では失業率は10%以上という状況で、社会的心理不安に陥った若者たちがネオナチに走るといった困った現象も起きています。
そんな状況を『ディ・ヴェルト』紙電子版が連続シリーズ "Armutsdebatte" 「貧困論争」で伝えています。今日ご紹介するのは "Ein Leben ohne Hoffnung auf sozialen Aufstieg" 『社会的上昇の望みなき人生』

ううっ、身につまされる!

《翻訳開始》
(注:以下の翻訳文は管理人の承諾なく一部ないし全部の転載を禁じます)
彼らは失業している場合が多く、貯金もなく、社会から見放されていると感じている。だがこうした下層の人たちは新しい現象でもなんでもない。政治は次第に自らが機能不全に陥っていることに気付き始めた。
彼らにとって毎日は同じだ。働いていないからだ。いつまでも寝ていてテレビばかり見ている。RTLの午後の討論番組は彼ら向けに制作されている。脂っこいジャンクフードを食べ、運動せず、顔色は青白く太っている。こういう人たちの子供はデニスかシドニーとかいう名前で、日がなゲームボーイで遊び、学校に行くとしても基幹学校(ハウプトシューレ)だ。彼らは新下層民だ。

(訳注)
・基幹学校(ハウプトシューレ)とは4年間の基礎学校(グルントシューレ)。修了後にいくつかの選択肢から選んで進学する学校で、いわば義務教育の後期に該当するが、8年生までで義務教育完了、成績優秀者だけが9年生に進み9年終了で日本で言う中卒資格となる。通常この学校に進学すると将来の大学進学は不可能。
・RTLは人気のテレビ放送局。ゲームボーイは世界を席巻している。任天堂恐るべし!

社会学者と新聞の学芸欄に続いて、政治がようやく新下層民に着目した。ドイツが増大しつつある問題を抱えていることをクルト・ベックSPD(ドイツ社会民主党)党首が認めたのだ。「これを下層民問題と呼ぶ人もいます」「ドイツには上昇意欲を失ってしまった人が余りにも多すぎます。彼らは自らの状況に甘んじているのです。彼らは物質的にも文化的にも恵まれている場合もあります」SPDのフランツ・ミュンテフェリング副首相も「弱者が社会の周辺にとどまっておらず」「取り込まれている」ことを懸念している。しかし、彼は「下層民」ということばを口にしたがらない。またウルズラ・フォン-デア-ライエン家族・高齢者・女性・青少年相はないがしろにされている子供たちを支援するための早期警告制度を発表した。

(訳注)
・ウルズラ・フォン-デア-ライエン家族・高齢者・女性・青少年相は日本の報道機関などは通常省略して「家庭相」と呼ぶ。女性宰相として有名なメルケル首相の側近でもある彼女は、医師である夫との間に7人(!)の子供を持つ。彼女の政策では少子化対策の方が日本では知られているが、ここでいう「早期警告制度」とは、子供の虐待や育児放棄を早期に発見するため、すべての子供に対して医師による定期的な強制診察を導入するというもの。強制力を持った点で画期的。

政策論争におけるベック首相の取組みはSPDと近い立場にあるフリードリッヒ・エーベルト財団の研究でも裏づけされている。研究によると、新下層民には「改革過程にある社会」である旧東ドイツ領住民の20パーセント、旧西ドイツ領住民の4パーセントが属する。そのうち3分の2はすでに失業しており、残り3分の1は自分の職場が「確かなものではないとしばしば」感じている。下層民は「非常に低い月収、ほぼゼロの預金、ほとんど家族に対する支援がない状態で未曾有の経済的不安」を感じている。自分の家にいても「自分たちの人生を今後自分で決めていくことができるという感覚を殆ど」持っていない。
「政治家たちは長期失業について余りにも長い間目をそむけており、全くの良心からではあるが、『そういう人たちには経済的な援助をします』と言ってきたのです」とベルリン大学国民経済学教授であり、ドイツ・プロテスタント教会(EKD)社会部会長ゲルト・G・ワーグナーは言う。「しかし、これは大いなる誤りです」歴史家のパウル・ノルテは「思いやりのある無視」という表現を使う。「マジョリティーの市民社会は社会の周辺で起きている実際の諸問題を金で解決してきたのです」
そうしているうちに問題は看過できなくなった。700万人以上の人々がドイツでは失業給付Ⅱと社会給付を受けており、そのうちほぼ200万人が子供だ。旧西ドイツ領の大都市ではすでに10人に1人がハルツⅣを受けている。これに、労働してはいるが収入が非常に少なく、貧困と認められる人たちが何百万人もいる。平均収入(2003年では旧西ドイツ領で930ユーロ、旧東ドイツ領で605ユーロ)の60パーセント未満しか収入がない人は貧困と認められている。2005年3月に報告された連邦政府による第二回貧富報告書によると2003年には国民の13.5パーセントが貧困だったが、この数字は2002年には12.7パーセント、1998年には12.1パーセントに過ぎなかった。増加の主な原因は長期失業の広がりだ。「長期失業はわれわれが子供の頃にもすでにありましたが、その割合は非常に小さいものでした」とワーグナーは言う。しかし、その後長期失業者数は急上昇した。ワーグナーは言う。「問題の全体像がよりはっきりしてきました。長期失業者が増えているのです」

(訳注)
・"Langzeitarbeitslosigkeit"「長期失業」とはドイツでは1年以上失業状態にあるものを言うが、日本では「13カ月以上失業していて現在もなお職についていないもの」と微妙に異なる定義がされている。
ドイツでは前シュレーダー政権時から失業対策、それと絡めた社会保障改革が行われ、伝統的なマイスター制度にメスが入れられた。
ハルツⅣとは社会保障制度改革のいわば仕上げ段階としてのハルツ法の第Ⅳ段階で、2005年に実施された。「失業手当」の給付期間経過後に期間の制限なく給付されていた「失業扶助」と、「失業扶助」とは関係なく付与されていた「社会扶助」を一本化して「失業手当Ⅱ」として受給条件を厳しくし、自立支援を整備して仕事を紹介、これに対しては正当な理由なく断ることができないようにしたもの。これを巡ってはドイツ中で反対運動が起きている。

かつてよりも貧者が増えたばかりでなく、目立ってもきたのだ。現代のメディアもこの問題に注目している。レポーターたちはケルン・コアヴァイラー、ミュンヘン・ハーゼンベルクル、ベルリン・ノイコルンに殺到し、「本当に貧しい人」と公営住宅、ビンゴ・ホール、日焼けスタジオにいる「新下層民」を衆人の目にさらそうとしている。まだ仕事がある視聴者にはわかっている。1年間の失業後、ハルツⅣをもらって、落ちるところまで落ちてあそこにでも転がり込んでいればよいのだと。景気のいいジーメンスやアリアンツのような世界的コンツェルンまでもが労働者を解雇するようでは、職場の確保など全くない。また、これによって自国における貧困に対する見方が厳しくなる。トークショーでは不幸に見舞われた人が家庭の不和を解決し、「スーパーナニー」が子供たちにお説教し、番組のインテリアデザイナーがうれしそうに彼らの住居に輝きを持ち込むと自宅がどう見えるのか、私たちにはわかっている。新聞の文芸欄では「ホワイトプア」が文化的前衛だともてはやされている。「どうもありがとう」から「これでわかった」まで、彼らの言うことばはテレビ業界によってテレビのスローガンに変えられている。

(訳注)
・ケルン・コアヴァイラー、ミュンヘン・ハーゼンベルクル、ベルリン・ノイコルンはいずれも大都市周辺の住宅地だが、ここで言う「新下層民」が住むような公営住宅が集まっているところ。
・ビンゴ・ホールは賭博を禁じられた日本では馴染みがないが、あのビンゴゲームで賭博を楽しむもの。数字が並んだカードを買って、ビンゴになれば賞金がもらえる。
・「スーパーナニー」はイギリスのテレビ番組。この番組では、毎回「ナニー」(=しつけのプロ)として15年以上の経験を持つ「スーパーナニー」ことジョー・フロストという女性が、子育ての悩みを抱える家庭を訪問し、独自のしつけテクニックでわがままな子供たちを見違えるようなよい子に変えていく。さらに、子育ての問題だけでなく、家族が抱える問題も解決する。日本でもケーブルテレビやスカパーで放送されている。
・"Geiz ist geil" や "Hier werden Sie geholfen"は「新下層民」ではやっている表現で、それが今では一般でも使われている。"Geiz ist geil" は他のドイツ語で言えば"Vielen Dank!"。"Hier werden Sie geholfen"はウェブサイトのFAQなどに使われている。日本語では「お悩み解決」あたりにあたる。

歴史家のノルテは、白日の下にさらされざるを得なかった「貧者と依存の文化」について語っている。彼によると、新しい下層民は多くの人が考えているほどには固定していない。次の世代にまで引き継がれる貧困の経歴、つまりノルテが言うところの「異なる階層に移動する際の他力本願を世代間で引き継ぐこと」は今まではどちらかと言えば定常的というよりも例外だった。貧者の3分の1は1年後、3分の2は2年後には貧しさから抜け出す。「貧困からの脱却にとって、収入は決定的な役割を果たしている」と連邦政府の報告書には書いてある。「特に、適性があって配偶者なしで子供を育てている母親は生活保護からすぐに脱却します」とワーグナーは言う。「しかし、それとは逆に適性のない母親には非常に難しいのです」
もしかすると彼女たちは脱却などしたくもないのかもしれない。脱却してもどうしようもないのかもしれない。研究によれば、家族がいる失業者はハルツⅣを受けた場合の方が定職についているよりもずっと経済状態が悪化する。特に、給付を受けながら官庁の統計に出てこないような不正労働をしている場合はなおさらだ。ハルツⅣで生活が成り立つように配慮することによって政治は忙殺されている。どうすれば政治をハルツⅣの問題から救い出せるのだろうか? キリスト教民主同盟が要求しているように、労働意欲の欠如に対してもっと厳しい制裁を加え、医師の診断や休暇禁止などを加えればよいだろうか? 専門委員会が求めているように支援を30パーセント引き下げればよいのだろうか? コンビ賃金やもっと太っ腹の追加的稼得で彼らを仕事に戻らせることができるのだろうか?
ワーグナーのような専門家は懐疑的だ。「今現在長期失業中のものには、もう遅すぎるのかもしれません。実際には多くの人たちがもう働けません」お金では治すことができないのだ。彼らには国家が「第三の労働市場」に職場を造らなければならないという。子供に支援するのも最良の方法かもしれない。というのも、そうすれば子供は働いている両親をお手本にするからだ。

(訳注)
・"Kombilohn"「コンビ賃金」とは低賃金の雇用と賃金助成を組み合わせたもの。
・"Zuverdienst"「追加的稼得」はハルツⅣで失業給付Ⅱ受給者が収入を得る場合、その収入の一定額までは失業給付Ⅱを併行して受給できる、すなわち失業保険に加えて「追加」的な「稼得」を得ることを認めるというもの。ドイツハルツⅣなどによって社会保障制度改革を進めるのと並行して、労働市場改革の一環として雇用機会の創出と失業問題の克服を図るべく、失業保険料率の引き下げ、解雇保護制度の緩和、労働市場政策の見直し等を行っている。
・「第三の労働市場」とは障害者向けに国が支援している工場などに低所得者を受け容れて労働させようというもの。これもかなり反発を呼んでいる。
《翻訳終了》

【ゴリ丸の感想】
いずれにしろ社会保障大国ドイツは苦しんでいます。労働市場も社会保障も社会の根幹を成すものですから、社会システム自体を根本から変革する必要があるわけです。
ひるがえって日本を考えると、状況の差異はあるものの、労働意欲がないニート、意思は認めるものの社会保障の谷間に入ってしまっているフリーター、バブル崩壊後の不景気の波を乗り越え切っていない個人所得など、ドイツに負けず劣らず問題山積です。景気は回復したと日本政府は言いますが、その場合の「景気」は企業にとっての景気であって、国民感情としてはちっとも景気は回復し切れていません。その上、朝日新聞によれば国民の諸負担は年間72万円増えたといいますから、月に6万円も増えているのです。では収入がそれだけ増えたかと言えば、そうは行きません。したがって生活保護を受けるなどといった惨状が見られるわけです。
感想の域にとどまるのではありますが、ドイツが苦しみながらも根本的な社会変革を追及しているのに対して、日本の場合にそういうものを余り感じられないのはなぜなのでしょうか? 利権構造や官僚制度を保持したままだからでしょうか? 自民党支配が続いているからでしょうか? 未来社会の礎を築く上で、実に大きな、そして重要な問題だと思います。

この稿終わり

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| | 2011年08月22日(Mon)11:07 [EDIT]


 

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