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鋭読 ~英独のニュースから世界を読む~

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イチローの記録達成の評価に見る日米の違い

この翻訳ブログで、MLBにおける日本人選手の活躍についてはたびたび触れてきましたが、よく彼我のレベル、質、歴史の差について言及されることがあります。日本の野球に関するアメリカの記事、情報の中には誤解もあります。その多くは、アメリカ側において、日本の野球事情に関する情報が少ないことに起因していると思われます。日本人がMLBについて詳しく調べているほど、彼らは日本の野球について知らないのです。考えてみれば、ごく自然なことかも知れません。
こんな背景から、日本プロ野球からMLBにわたって活躍し続けているイチローの記録として、日本でプレーしていた時代の記録を加算するべきか否か、永遠の議論の的となるのです。
今回は、そんな記事をアメリカの "Sports Illustrated" から取り上げます。
"Ichiro worth celebrating but don't believe hype about passing Cobb" 「イチローは祝福されるべきだが、タイ・カッブを超えたなんて話は信じちゃいけない」です。この記事はイチローという偉大なプレーヤーに対するリスペクトを忘れてはいません。それでいながらも、彼我の差は歴然としているというのです。

(注:リンク、トラックバック、引用は出典を明記した場合に限りフリーです。出典を明記せず、または管理人の承諾なく一部ないし全部を転載することは、これを禁じます。コメントから連絡ください)

<開始>
2010年夏のある日、鈴木一朗はヤンキースタジアムのクラブハウスを訪れた。当時彼はまだシアトル・マリナーズ所属で、オリーブ色で男性ファッション雑誌のページから抜け出てきたようなカッコいいサマースーツを着ていた。フレームの小さなサングラスをかけ、黒髪はなでつけられ、長細い黒いトランクを引きずっていて、これには、彼があとで開けるとバットが何本かきちんと揃えて入れてあった。若き日のBBキングが愛用のギターを持ってメンフィスのブルースクラブに着いた、または1920年代のシカゴのギャングの親分がマシンガンを入れてきたといった風情だった。
投手に対して、イチローは何者にも勝っている。スタイリッシュで、正確で、危険だ。その日の対ヤンキース戦では4打数2安打だったが、これは2001年に、一挙一投足を追いかけるマスコミの一団を引き連れてメジャー入りし、瞬く間に自らが当時最高の安打製造機だと証明した彼としては普通の数字だった。
あの奇妙な、猫背で内股の構えからイチローはあらゆる方向に打球を放った。2001年から2010年までの間にアメリカンリーグで首位打者に7度なり、その間、.350を超えたのが4回。2004年には262安打で、そのうち225本がシングルヒットだったが、この両方の数字はメジャーリーグのシーズンで誰も成し得なかった数字だ。(イチローは長打力もあったが、その本当の価値は何と言ってもシングルヒットだった。)
彼は常にスピードがあり(したがって内野安打の恐れがあり)、ベースランニングが巧みだった。四球狙いなどではなく、ダグアウトから素振りしながら出て来て、打ち気満々だった。
こうしたことすべてから、マーリンズ所属の41歳で、常時出場するわけではない外野手のイチローが生涯安打数2915本に達した理由が分かる。最近3シーズンでは打率.267だが、依然として野球エリートであり、安定した守備を誇り(絶頂期には打球処理が本当にうまく、ゴールドグラブを10回受賞している)、打席に入ると他にはない存在感がある。マーリンズのユニフォームを着ているかどうかは別にして、来シーズン、イチローがメジャーリーグ30人目の3000本安打を達成する確率は高い。彼が日本プロ野球からメジャーに来た最高のプレイヤーであることは論を待たない。
それにとどまらず、イチローは日本のパシフィックリーグで過ごした8シーズンで1278安打を放ったので、プロとしては合計4193安打だ。これは大した数で(偉大なハンク・アーロンでさえ4106本)、MLBが何だかひどくヘンな(かつ明らかに誤った)発表をするのも無理はない。先週末からファンは携帯にプッシュ通知を受信し、イチローが「これまでの全記録において」カッブと「並び」、そして「上回った」と言い放つ見出しや写真の注釈を目にした。
これを信じるのが普通で、話は1948年の米大統領選でデューイがトルーマンに勝利したという誤報をみんなが信じたのと同じなのだ。
イチローがカッブを上回ったというのは、よくある与太話と同じように他意のないものだ。カッブは、メジャーリーグで4191安打とされるが(実は4189安打だが、1981年に過去にさかのぼって決められた数字であり、4191安打がそれ以来語り継がれてきていて、これが変わることはないだろう)10代のころにいたサウス・アトランティック・リーグでも166安打を打っている。彼は試合に出てお金を稼いだので「プロフェッショナル」ということになり、これがMLBおよび、それに追随して外部報道機関が固執している定義である。これによってカッブのプロとしての生涯安打数は4359本になっている。メジャーリーグで総安打数4256本のピート・ローズはマイナーで427本打っており(当時も彼はプロだったというわけ)、生涯安打数は4683本になっている。イチローが現在の平均安打数を打ち続けても、この数字に達するのは2020年か21年だ。
だが、日本プロ野球のレベルが高いと言う人がいるだろう! メジャー並みなんじゃないのか? イチローがパシフィックリーグに在籍した1992年から2000年の時期を考えて欲しい。MVPにはジャック・ハウエル、トム・オマリー、タフィー・ローズらがいた。彼らは皆、日本にいた絶頂期にものすごい数字を挙げたのだが、メジャーに在籍し、あちこちを渡り歩いていた時期の打率はそれぞれ.239、256、.224に過ぎない。
どういうことだろうか・・・
投手以外では13人が日本からメジャーに渡ってきた。イチローと傑出した点取り屋の松井秀喜を別にすると、目立った活躍は見られない。日本には豊かで素晴らしい野球文化があり、きめ細かい伝統が築かれていて世界クラスの才能ある選手を輩出しているのだが、かの国で達成された数字とMLBで達成された数字が肩を並べたり、暗黙のうちに同等だということにはまったくならないのだ。
イチローの誤ったマイルストーンは日曜日、ブッシュスタジアムで美しいシーンを生みだした。彼は「プロ通算」4192本に対してスタンディングオベーションを受け、その安打を放ったバットを保存した。イチローが偉大な選手であることには変わりない。立ち上がって祝福するに値する選手だ。彼は野球を愛し、今世紀見たどの選手よりもうまくプレーし、この時代に彼がいるとは、私たちは幸運だ。それでも彼がカッブを「上回った」などという考えはばかげた話に過ぎないのだ。
<終了>

【ゴリ丸の感想】
MLBでは記録の取り扱いに非常に神経を使います。その割には日本に関する情報や日本のプロ野球の記録については結構いい加減で、この記事でもパシフィックリーグのことを紹介していながら、MVPとして出てくるのはオマリーやハウエルといったセントラルリーグも混ざっています。しかもローズが受賞したのは2001年。なんだか「ゆるい」ですね。
この記事の主旨は、個々のプレーヤーに対してはリスペクトするけれども、MLBは世界一のリーグであり、他のリーグの記録は、MLBとのレベルの差からして、比肩するべくもないというものです。ひとつには national pastime 「国民の楽しみ」と呼ばれるアメリカの国技=ベースボールに対するかの国の誇りの表れでしょう。イチローの生涯安打数に日本のプロ野球でプレーしていた時代の安打数を加算することは妥当だけれども、それをもって、タイ・カッブを「上回った」などというMLBの発表は、シカゴ・トリビューン紙が1948年の米大統領選の結果速報で、当選確実と言われながら敗れたデューイがトルーマンに勝利したとする世紀の大誤報を出してしまったのと似たようなものだと切って捨てています。
どうでもよいことだと言ってしまってもよいのかも知れません。なぜなら、本記事にもあるように、日本での安打数を加算しなくとも、イチローという超一流のベースボールプレーヤーに対する評価が揺るぐものではないからです。
しかし、本記事にも誤謬はあります。イチローが日本でプレーした時代には、プロリーグのレベルの差があったことを理由に、日米を合算してタイ・カッブを上回ったというのは誤りとしています。では、現代のプレーヤーについてはどうするのでしょうか? バリバリのメジャーリーガーが来日してプレーすることは、まるであり得ない話ではなくなっています。依然として日米間ではギャラの差が非常に大きいのですが、例えば子どもの教育、家族の安全を考えると、日本でプレーする価値を認める一線級のプレーヤーは存在すると言われていますから。あるプレーヤーが、MLBで一線級として通用すると認められていながら日本でのプレーを選択し、その後、MLBに復帰したとしましょう。日本での記録は生涯記録としては通算するというのが本記事の主旨です。では、今の日本プロ野球のレベルはMLBと比較して、どうなのでしょうか?日米での記録を合算した生涯記録を以て、他のアメリカでしかプレーしていないプレーヤーと比較してはならないほどなのでしょうか? イチローはカッブと比較してはならないのだとすれば、誰と誰ならばよいのでしょうか? いつの時代からならば良いのでしょうか? カッブが在籍したサウス・アトランティック・リーグのレベルは日本プロ野球以上なのでしょうか? または、そもそも比較してはならないというのでしょうか?
ベースボールを愛するゴリ丸としては、たいへん悩ましい問題なのです。
~この稿おわり~

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